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蔡明亮監督作品『楽日』を観る

ユーロスペースに蔡明亮監督作品『楽日』を観に行く。
11:20からのの初回。

本編上映前、同じ蔡明亮監督の『西瓜』の予告編が流れてましたが、
ラテン音楽と中国映画(正しくは台湾映画)の組み合わせに参ってしまう。
王家衛しかり、中国人が出ている映像にラテン音楽が流れるとイイ映画の予感がします。
それにしても、ユーロスペースさん、予告編を流す時間長すぎないですか?
次から次と予告編が流れ、途中でまだ流すのかよー、と思いました。

で、『楽日』。
プレノンアッシュさんの配給なんですね。
オールド香港好きで、香港の古い建物の写真を撮って歩いたり、
その手の本を集めているワタシにはたまらない作品でした
(といっても、台湾が舞台の映画ですが)。
土砂降りの雨の日の、古い映画館の最後の日、という内容。
足が不自由な劇場の受付係の女性が大劇場の建物内を歩き回り、
客の日本人青年も劇場内を移動するので、
この作品を観ている観客も、この大劇場の迷路のような建物を隅々まで見て歩いているような気分になる仕掛け。
映画の冒頭、胡金銓の『残酷ドラゴン・血斗!竜門の宿』の映像から始まります。
いい感じ。
胡金銓なので、ショー・ブラザースの映画かと思ったら、
これは台湾の映画らしいです(道理で知らなかった)。
大劇場の中は、客もまばらで、映画を観ているのは、
劇場にやってきたこの映画の主演俳優であった二人の老人とその孫ぐらい。
それにしても、何が起こるわけでもなく、台詞もほとんどなく、
ただひたすら静かに劇場を撮っているだけなのですが、
この実在した福和大戯院という劇場は、カメラに撮られるべき被写体で、
どのシーンも本当に絵になるのです。
汚い古い廊下や、階段が映れば、それが経てきた時代の流れを思い起こさせ、
ガラガラの客席が映れば、それがかつての映画の黄金期に
同じような武侠映画を楽しむ老若男女で場内がいっぱいだった光景を想像させる。
受付のボックスの中で女性が食べる桃饅頭の毒々しい色までもが美しい。
この受付の女性が映写技師の男性に恋心を持っていることが、
わざわざ大劇場のはるか上の映写室まで、
桃饅頭の半分を差し入れに不自由な足をひきずって上って行くことからわかるのですが、
これがこの劇場での人間模様のひとつ。

もうひとつの人間模様は、劇場の上の方に巣食う男色の男性達と日本人客。
ワタシが社会人になりたての頃、土曜日の夜、
終電を逃したワタシは(当時お付き合いしていた)カレと、
時間潰しに、それに冒険心から新宿東口そばの、
成人映画専門の新宿国際劇場のオールナイト上映に入りました。
入り口に「ホモ・女装禁止」という張り紙があり、不穏な予感がしましたが、
気にせず場内に入ったのですが、そこで目に入ったのは思わぬ光景でした。
かなり大きな劇場で、観客が少ないにもかかわらず、
男性達は皆、四隅に固まって座っているのです。
とりあえずワタシ達は、周りに誰もいない中央の席に座りました。
後ろの二隅の客からの視線は「冷やかしに来んな」というものでした。
そして、四隅の男性達は皆ひっきりなしに、席を移動し、
男性の隣の席にすわり、しばらくすると立ち上がり、近くの出入り口からロビーに出て、
また別の入り口から入り四隅のどこかのまた別の男性の隣に座り、
たまに交渉が成立したであろう二人の男性が立ち上がり、
場内から消え、という繰り返し。これが一晩中。
扇情的な成人映画が上映されているにもかかわらず、
場内の誰一人映画なんぞ観ていません。
男色家達は、週末の恋人を探すために必死で、
ワタシ達はその光景を固まって見ていました。
成人映画の劇場に入ったことで、最初はワタシが襲われやしないかとビビってましたが、
状況がわかると色黒のラガーマンのカレの方がビビリっぱなしでした。
カレがトイレに行ったとき、無事に戻ってこられるかどうか、
あのトイレの時間は長く感じたものでした。
久しぶりにそんなことを思い出しました。

さて『楽日』本編。
最後の上映が終わり、観客がいなくなった劇場の客席をカメラがフィクスで映します。
チラシに
「ヴェネチア映画祭でのこの映画の上映は、ちょっとしたハプニングとして今も語り継がれている。映画の終盤、空っぽの観客席をスクリーン側から捉えた不動のショットが5分間続く。そのとき、観客の反応は真っ二つに分かれた。何かの間違いではないかと、腰を浮かせ、ざわつき始める観客たち、そして感動のあまり息をするのも忘れて静かに涙を流す観客たち」
と書いてありますが、ワタシは5分もあるように思えなかったです。
そして、閉館の日にもかかわらず、いつもと変わらず受付係の女性と映写技師は劇場を閉め、
最後に土砂降りの雨の中、劇場の遠景と女性が帰るショット。
この雨のショットが美しかった。
2003年製作の作品です。日本で上映するのに3年もかかっているんですね。
こういう地味な映画の上映は難しいのでしょうか。

「ムルギー」で卵入りムルギーカレーを食べる。
荒木一郎の小説『ありんこアフター・ダーク』の中に、
主人公がゴリという人物とこのムルギーカレーを食べる場面がありました。
食後のコーヒーを「セピアの庭」でいただく。
萩原珈琲の豆です。マンデリンをオーダー。
カウンターの隣の座っていた女性が、ミケランジェリのCDと
雑誌『ショパン』をみられていたので、
思わず声をかけてしまいました。
ピアノの話をし、駅までご一緒させていただきました。
楽しかった。

苦手な渋谷にて、素敵な気分になれた一日でした
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 リネン

Author: リネン
♀。会社員。独身。
東京23区在住。
深煎りコーヒーが好き。
成瀬巳喜男監督作品56本を
劇場で観たのが自慢。

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