桜が満開ですが、今年は花見も取りやめてラピュタの田中登特集へ。
『夜汽車の女』。
お屋敷に住む大学教授の娘姉妹の禁断の愛を描いた幻想的なお話。
真面目で陰気な姉・裕美(そうは見えないけど27歳)と奔放な妹・冴子(23歳)は、異常に仲の良い姉妹だったが、姉に有川という父の研究室の男との縁談がもち上がったことにより、一家が崩壊していく、というストーリー。
織田俊彦演じる有川という男、出世を狙って姉と結婚しようとするですが、妹に誘惑されるとすぐに妹と関係を持ち、心変わりして妹と結婚しようとするものの、教授である父親に妹との結婚を反対されると、姉と復縁しようとする自分の利益のためなら何でもするトンデモナイ男なのですが、村上ファンドの村上世彰に似ていて観ていて笑ってしまいました。
姉妹が冷たくあたる家政婦ひろ子(桂知子)が、最初から何かやってくれそうな雰囲気。
ひろ子がアイロンとハンドバッグを前に身悶えするシーンにびっくり。
アイロンですかー。
姉と有川が湖畔のホテルに行ったのを追って、嫉妬に狂った妹は夜汽車に乗るのですが、ここでやっとこの作品のタイトルの所以が判明します。
この夜汽車のシーンが摩訶不思議で、1972年なのに蒸気機関車で中は板張りで、年老いた瞽女が3人乗ってきて唄をうたい出したりして、宮沢賢治というか(「銀河鉄道999」はこの映画よりずっと後の作品)、幻想譚というか、とにかく不思議。
この汽車の部分だけ別の映画のよう。ああいう映像を撮ってみたかったのでしょうか?
非常に耽美的なファンタジー作品でした。
音楽はバッハのチェンバロによる演奏曲いろいろ。
前回観た『女教師』と同じく全編クラシックでした。
次に田中登が監督した2時間ドラマ作品、
テレビの朝日の月曜ワイド劇場『白い悪魔が忍びよる』(1984年)。
これは、本当に凄かった!必見!
(といっても今日が最終日なのですが)
山本陽子演じる自宅に蔵があるおうちの裕福な奥さんが、ふとしたきっかけで佐藤慶演じる売人に覚せい剤漬けにされ、最後に娼婦にされボロ雑巾のようにされるというお話。
まず佐藤慶がすごい。
冒頭、渋谷駅で山本陽子と出会ったときの目つき、恐ろしすぎる。
この佐藤慶の恐ろしさ、どこかで見たと思ったら増村保造の『大悪党』です。
(そういえば『白日夢』もそういう役でしたね)
佐藤慶ほど、こういった一度目を付けたら決して逃さない大悪党を演じられる俳優はいないなぁと。
そして何より山本陽子の演技の凄さ。
狂気の大熱演といっていいでしょう(この言葉、『異常性愛記録ハレンチ』での若杉英二のことを書いた時以来つかったわん)。
最初は絵に描いたような良妻賢母なのですが、覚せい剤をやってハイになった所の演技が何とも自然だし(そういう本物の人を見たことはありませんが、たぶん。)、
ヤクが切れてもだえ苦しみだすところがすごくて、喉が渇きだして自動販売機の前でジュースを飲むところとか、薬欲しさにカラダを男達に任せるところもすごいし、
そして何より幻覚でおかしな行動を起こすところの迫真の演技ときたら、山本陽子一世一代の大演技です。
クスリによって段々とおかしくなるところを色々なエピソードで見せるのですが、いやぁ本当に恐ろしい。
最後に山本陽子は家を飛び出し、堕ちるところまで堕ちるのですが、
汚い海辺(川辺?)の部屋で男に身を売る時の顔、錯乱している時の顔、とにかくスゴイのです。
こんなに迫真の演技をする女優さんとは知りませんでした。
凄まじい演技と身の毛もよだつ恐ろしいストーリーの2時間ドラマが地上波のゴールデンタイムに放送されたとは信じられません。
覚せい剤を腕に注射する局部のアップのシーンが何度もあったのですが、今ではこんなリアルなシーン流せないのではないでしょうか?
113分、息もつかせぬ恐怖の連続の大傑作でした。
(出演者も西郷輝彦、加賀まりこ、山村聰、浦辺粂子、樹木希林と豪華。音楽は佐藤允彦。)
休憩の間、高崎俊夫さんから伺ったのですが、
この当時、主婦の薬物乱用者の増加が問題になっていたそうです。
そういえば、私も小学校に入った頃、人から薬や飴をもらっても、
覚せい剤かもしれないから口にしてはいけないと親に言われました。
それから、高崎さんから中川梨絵のデビュー作品は成瀬巳喜男の『乱れ雲』だとも教えていただきました。
加山雄三が赴任した青森支社の女子事務員役だそうです。
ビックリです!
高崎さん、お話有難うございました。
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昨日はどうも。『白い悪魔が忍びよる』、楽しんでいただけたようで、なによりです。今回、上映できたテレビ作品は、ジャンク寸前だったものが多く、これを機に、「田中登テレビドラマ傑作選」のようなDVDボックスが発売されればよいと思っています。なお、初期の田中登作品では、坂田晃一が音楽を担当していますが、クラシックを多用する、彼のメロディアスな音楽は、とても貴重な仕事だと思います。それと、トークショーの後で、川崎軍二さんが言っていましたが、『責め地獄』で死神おせんが障子を持って、すすきの原っぱを歩くというのは、当時、助監督だった相米慎二のアイディアだったそうです。相米監督は歌謡曲を絶妙な形で引用するのが得意でしたが、多分、田中登監督の影響もそこにはあったように思います。では、また。
はじめまして。高崎さんからこのブログを教えて頂きました。わたしも「白い悪魔が忍びよる」を見まして、その見も毛もよだつような迫力に脱力しました。覚醒剤を注射するさいの克明な描写はおそらく現在では不可能ではないでしょうか。劇場で見られる成瀬をスクリーンで見られたというのは、成瀬を研究しているものとしては頭が下がる思いです。これからもブログを楽しみにしております。