先日予告した通り、今日は1989年3月発行のユリイカ臨時増刊「総特集 監督川島雄三」について書こうと思います。
入手困難なこの本、古書店で1万円近くの値がついていることもあるらしいのですが、
ワタシが大枚叩いて買ったわけではなく、数年前ある男性が誕生日にプレゼントしてくれたので、手元にあるわけです。
川島映画のファンであるにもかかわらず、そんな貴重な本をこれまで本棚に放置していて、今回のフィルムセンターの特集上映で、そういえばユリイカ持っていたなと思い出し、初めてページを開いた不届き者です。

で、目次を見てビックリ。
何て豪華な執筆陣でしょう(詳細は目次頁を写した写真をご覧下さいませ)。


パラっと目を通しただけでも量の多さと内容の濃さに驚き、これは何回かに分けて本の内容について書かなければいけないなと思い知りました。
とりあえず今日は第1回目「その1」です。

まずとりあげるのは「キネマ旬報」昭和26年6月下旬号から収録された「ざっくばらんな話 新鋭監督座談会」です。
何と出席者は川島雄三(松竹)、杉江敏男、谷口千吉、鈴木英夫(大映)、双葉十三郎、荻昌弘です。
鈴木英夫は大映時代ですよ!
面白いのが、鈴木英夫がとても饒舌で「大映はやりたいようにやらしてくれない」という不平不満を繰り返し何度も述べていて、好条件の東宝を羨んでいる様子であること。
『蜘蛛の街』について鈴木英夫は「7500の尺数を貰ったのですが、日数がなくて、7000撮って500分は撮り切れない。撮った部分で後を工夫しろというわけです。残念です。本にあるだけは撮りたいですよ。年中そういう状態です」と嘆いております。
またもう1作『蜘蛛の街』みたいな作品をやりたいかとの質問には
「やりたいが、会社がよろこばない。ああいう題材を取り上げた場合、ああいう表現の仕方を喜ばない。もっと追跡とか派手なことを喜ぶ。シナリオはそういうシナリオなんですよ。あの形でシナリオができたら許可にならないですからね。」とまた愚痴てる。
一方、川島雄三は対照的にとても落ち着いた感じであることが文面からも感じられます。
双葉十三郎に『還って来た男』についてたずねられると、
「お仕着せみたいなものですが、その中で余計なことをしようとして失敗している傾きが、大分あるのじゃないかと思っているのです。」と謙遜。
鈴木英夫の会社への不満を聞いた後には、
「お仕着せでやる場合でも会社ではホーカムを大変多くしてくれということじゃないかと思うのです」と返しています。(「ホーカム」って何?)
また川島は谷口千吉の『銀嶺の果て』について「『銀嶺の果て』は大変感心しちゃったなぁ。純粋だということに最初に打たれたのです」と、すごく評価しているのですがワタシは『銀嶺の果て』未見なので気になります。
批評については「映画批評と申しましてもいろいろございましてね。(中略)映画批評にも両方ある。(中略)いまカット趣味って仰ったけれども、、技術批評をやる人は割合少ないのじゃないですか。新聞じゃできないけれども。(中略)僕はもっと技術批評があってもいいと思う。(中略)印象批評はお客さんの方を代表している感じがあるからいいかもしれないが。(中略)技術批評は勉強しないとできない。」と話しております。
また、洋間に比べて畳が難しいという話になり「日本の常識を外してかまわない。カメラから見た眼でやっていいのじゃないか」。
男性と女性どちらを描くのが得意かという話題には
「女はちょっとむずかしい、簡単そうだけれども・・・。」「男と女の扱い方は、僕らは、男は立派やかな人は工合が悪いということがあって、多少軽率な人物にしちゃうことがある。」とコメント。
大好きな川島雄三と鈴木英夫が若手として一緒に座談会していて、しかもその内容がそれぞれの監督の性格が出ていて、読んでいて本当に面白い。
この座談会の記事はたった10ページ程。
そしてこのユリイカ320ページにギッシリ川島雄三について、もしくは川島雄三自身による必読の文章が詰まっているのです。
川島ファン必読のユリイカの紹介、続きはまたそのうちアップします。
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侘助さん
このユリイカには川島雄三自身による文章が掲載されているだけでなく、川島雄三からバトンを受けた岡本喜八による『江分利満氏の優雅な生活』に関する寄稿や、藤本義一、フランキー堺、小沢昭一などの文章も載っていて奇跡のような内容です。
亡くなる直前の川島雄三の鼎談については↓にまとめました。
http://ssbs.blog36.fc2.com/blog-entry-291.html
次回作のはずであった『江分利満氏の優雅な生活』について熱く展望を語っています。