本日も東京国際映画祭へ。
ル・シネマにて須川栄三監督作品『野獣狩り』(1973年、東宝)を鑑賞。
今回の映画祭で一番楽しみにしていた作品。期待以上に素晴しかったです。傑作。
「1973年5月17日」というキャプションから映画は始まります。
次に電車の週刊誌の中釣り広告のカット(ハイセイコーや小川知子結婚などの記事)が映り、チャカポコチャカポコいってるムチャクチャ格好いい音楽が流れています。
ううううむ。この映画は傑作に違いないな、と。
熱血漢の主人公・藤岡弘は、伴淳三郎演じる父親ともども銀座署の刑事。
親子揃って同じ署に務めるはずないだろうとか、親子なのに全然似てないとか、伴淳三郎あんなに歳とってるのに現役刑事のはずないとか、親子刑事が男二人だけの所帯という設定が不自然とか、そういう突っ込みはナシです。
この映画の凄いところは、早い段階で、誘拐事件の犯人グループの正体も潜伏先も観客に明らかにしていて謎解きは終っているにもかかわらず、最後までものすごい勢いと緊張感で引っ張っていき観客を魅了するところです。
これは、木村大作による驚異的なカメラ、銀座・日比谷など街頭ロケ(日劇のビルなどが映っている)、村井邦彦の音楽にもよりますが、何と言っても主演の藤岡弘の魅力によるところが大きいでしょう。
太い眉毛、フサフサした揉み上げ、見事に鍛え上げられた肉体の2枚目藤岡弘は暑苦しいまでの男らしさを撒き散らしていて、その藤岡弘が肉体的魅力を誇示するように走ったり飛んだりするものですから、観客は引き込まれずにいられません。
正直ワタシは藤岡弘の性的魅力にすっかり撃沈いたしました。
性的魅力といえば、この作品、ニューロック風だったり、70年代のドン・セベスキー風だったりする音楽が異常にカッコイイのですが、藤岡弘と渚まゆみのベッドシーンだけ音が排されていて、代わりに金魚がゆらゆら泳ぐ水槽のカットが差し込まれて、これがまたカッコイイ。
木村大作のカメラが本当に凄くて、特に衝撃的だったのが2ヶ所。
社長が誘拐されたポップ・コーラ社が入っている日比谷のビルの前の道路で藤岡弘はすぐ近くにある取り壊し前のビルに不審な様子を感じとった時のカメラの動き。藤岡弘目線で荒々しく東宝(宝塚?)のビルのてっぺんを下から撮り、次に藤岡弘の体の動きを中心に街頭の俯瞰のカット。
この映画、街頭での俯瞰ショットがとても多く、俯瞰ショット・フェチのワタシは狂喜乱舞いたしました。
もう一つの驚異的なカメラは犯人グループの一人がタクシーに乗って、走って追いかける藤岡弘から逃げる長ーいワン・ショット。
日比谷の道路を走るタクシーの後部ガラス越しに追いかける藤岡弘が最初は大きく見え、タクシーが走り出すにつれ藤岡弘が小さくなり、さらにタクシーが信号か渋滞で止まると段々とまた藤岡弘が大きくなって迫ってくるという状況を驚異のワン・ショットで撮っていているのです。
ここのシーンで劇場が沸きましたね。こんなカメラ見せられたら痺れずにはいられません。
藤岡弘が銃を持った犯人グループ2人に歩行者天国の銀座(今の銀座とは比べ物にならないほど人が多い)を連れまわされ、それを警察が追うシーン、次から次と迷路のように入り組んだ細い路地を入ったり抜けたりするシーン(途中、香港映画みたく飲食店の厨房まで通る)も素晴しかった。
藤岡弘のアクションも驚異的で、エレベーターのシーンもビルの間を飛び移るシーンも何とノー・スタントなんだそうです。しかもエレベーターに撃ち込まれたのは実弾の散弾銃なんだそう!(下記、コピペ参照。)それって銃刀法違反じゃん!
この映画、藤岡弘やらアクションやら暑苦しい魅力満載なだけではありません。
電車の中のチカン役で三谷昇が出演しております。
身長180cm、ムキムキな肉体の藤岡弘はチカンした三谷昇をとっ捕まえ、殴りかかります。
父親役の伴淳三郎は相当違和感があって、一人だけ仁侠映画の老親分みたいな古臭い言い回しをする演技をしていて周りの俳優の演技と違和感ありまくりです。
藤岡弘とも年齢差あり過ぎて全然親子に見えないし、繰り返しますが、どう見ても伴淳三郎から藤岡弘は生まれません。人種が違います。
『野獣狩り』、最後の血糊の色の不自然さ以外完璧で、毎日でも観たい素晴しい作品です
(しかしDVD化されておらず)。
下は藤岡弘によるこの作品についての解説です。
http://forest.kinokuniya.co.jp/CngSpe/269東宝の最高のスタッフが結集し、伴淳三郎さんと共演させていただき、一番熱くて一番燃えた、思い出の主演作です。木村大作さんという名キャメラマンのデビュー作でもあります。私が演じているのは型破りな若い熱血刑事。タクシーで逃亡する犯人の追跡場面が圧巻です。日比谷の東宝の映画館のあたりから日比谷警察まで。タクシーに乗り込んだ逃走犯と並走する形で、手持ちキャメラでバイクの後ろに乗り、私の全力疾走をワンカットで撮り続けています。40階建てビルの屋上を飛び移るカット、実弾の散弾銃が打ち込まれるエレベーターに紙一重で飛び降りるカット、全部スタントなしです! ビルから人質を逆さ吊りにする場面をゲリラ的に撮ったら、本物のパトカーや消防車が駆け付けてきて、それをそのまま撮影してさあ(笑)。映画作りに対する真剣さが、今とは全然違うんだよねえ…。
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