レディースデイにつき、立川シネマシティで再度『ラスト、コーション(色|戒)』を観てまいりました。
前回、公開初日初回で観て、もの足りないといった印象を持ったことを書きました
↓。
そして、他の方の感想(賞賛多数含む)も色々読み、オリジナルの無修正版DVDも見て、張愛玲の原作本も買って読み、そして今回再度観てみました。
一度劇場で観ただけではわからないことに何か気付いたり、印象が変わったりするかな、と思い。
が結局、劇場で再見しても「もの足りない」という感想は変わりませんでした。
今回は、冷静に何に物足りなく感じているのか、この作品が可もなく不可もなく感じる原因は何なのか、なぜ作品に説得力がないのか分析しながら鑑賞いたしました。
そして、なぜ『ラスト、コーション』をいい作品だと思えないのか答えが出ました。
画に深みがないのです。
実録 亞細亞とキネマと旅鴉のxiaogangさんが「この映画にいちばん欠けているのは、陰影と色香だと思う。」「時代の空気みたいなものが全然醸し出されていなくて、テーマパークみたいな映画だ。」と書かれてますが(
Link)、まったく同感で、『ラスト、コーション』からは官能とか時代の空気、街の猥雑さなどが全然伝わってこず、薄っぺらいコスプレ劇にしか見えません。
必死に当時の香港・上海を再現しようと頑張っているのはわかるのですが、どうにも薄っぺらくうわべだけの再現にしかなっていなく、当時の上海にあったであろう退廃的な雰囲気や混乱がスクリーンから伝わってこないのです。
だから作品に説得力がなく、映画を観ながら、「ああ、あの建物は『上海グランド』で○○のシーンのとき使ったセットだ」とか考えてしまうのです。
アン・リーは過去のオールド・シャンハイやオールド・ホンコンを舞台にした映画を研究した方がいいんじゃないの?とすら思いましたね。
例えば、スタンリー・クワンの『ロアン・リンユィ 阮玲玉』『ルージュ』『赤い薔薇 白い薔薇』(『ラスト・コーションで易夫人を演じたジョアン・チェンが出演)。スタンリー・クワンは(作品の出来不出来はおいておいて)本当に淫靡な時代の空気を醸し出すのがうまい!
ほか、同じ張愛玲原作のアン・ホイ監督の『傾城の恋』、イエ・イン監督『追憶の上海』(『ラスト、コーション』と同じ時代背景、ストーリーの作品。が、こちらの方が断然当時の混乱した時代の空気、緊迫感が作品から迫ってくる)、あと、時代は戦後だけれど静かながら色香が漂い、雰囲気が素晴しい田壮壮監督の『春の惑い』(傑作!)等々、ちょっと考えただけで色々思い浮かびますが、あげていったらきりがないなぁ。
ところで、ワタシが張愛玲が原作の映画で観たことがあるのは、『傾城の恋』、侯孝賢監督の『フラワーズ・オブ・シャンハイ』、キャセイ作品の『恋の行方(情場如戦場)』『ジューン・ブライド(六月新娘)』『家族(小児女)』。
キャセイの3作品は2002年国際交流基金で開催された「香港映画の黄金時代Ⅰ」という特集で、まとめて観たのですが、この時「張愛玲(チャン・アイリン)~上海文壇から香港映画界へ」等香港映画についてのシンポジムが行われまして、ワタクシ拝聴しながら必死に採録いたしました。この特集で開催されたシンポジムはいずれもとても興味深い内容だったのですが、xiaogangさんが採録をウェブにアップされているのを見つけまして、香港映画を見る上でとても参考になりますのでご興味がおありのかた是非ご覧になってください(
1、
2、
3)。
写真はこの特集のとき買った張愛玲の小説集「傾城の恋」(現在は絶版)と今回買った「ラスト、コーション」。

話は『ラスト、コーション』に戻りますが、無修正版を見まして、ワタクシ、これは絶対本番をやっているなと確信いたしました。
本番をしないで、あの状態を撮るのは不可能でしょう。
トニー・レオンのファンであるワタシが香港版DVDをオーダーしたことは言うまでもありません。
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