昨年『野獣狩り』を観てからというもの藤岡弘に魅了され、彼の出演作は観ていこうということで、『東京湾炎上』が浅草新劇場で上映されると知り、ワタクシ、何の迷いもなく浅草新劇場に行くことを決断しました。
これまで浅草の劇場は恐ろしいところだというイメージがあり敬遠し、一度も行ったことがなかったのですが、愛しの藤岡弘の映画のためなら危険もかえりみず観にいくのは当然であり、知人数人に浅草の劇場に行く心得を訊き(ガムに気をつける、お気に入りの服で行くな、何かされそうになったらはっきりノーと表明しろ)、浅草新劇場は浅草にある劇場の中でも最もヤバい劇場であり2階には絶対行かないようにとの忠告を受け、当日、洗濯機で洗えるスカートをはき遠路はるばる浅草新劇場に参じたのであります。
無気力そうな老人がたむろする場外馬券場向かいに浅草名画座、浅草新劇場が並んで建っています。



劇場内に入ってみると、5年くらい前通っていた中野武蔵野ホールや昨年のカナザワ映画祭のオールナイトで行った駅前シネマに比べて椅子も新しく全然きれいじゃないかと最初は思いました。
場内見渡すと女性はワタシ一人だけです。
この劇場のことがまったくわからないワタシは、1階の一番後ろの列、映写室すぐ前、通路からちょっと内側に入った席にガムが付いてないことを確認して座りました。
上映中にオジイサンたちがよろよろ歩くのも、ビニール袋をガサガサ音たてるのも、場内タバコを吸う人がいるのも想定の範囲内なので、大丈夫大丈夫と自分に暗示をかけつつ、上映が始まった『東京湾炎上』に集中しようと頑張って観ておりました。
映画のストーリーが、藤岡弘が乗務しているタンカーがテロリストにシージャックされるあたりまで進んだ頃、オジサンが後ろからワタシの肩を叩き、ギョっとしたのですが、そのオジサンはそのまま場外に出て行ったので気にしないようにしてそのまま映画を観ていたら、40歳代と思われるこの劇場内では若い男が、客席はガラガラなのにあえてワタシの左隣に座ったので、これはヤバいと思い、ワタクシ瞬間2つ右の座席に移動し座りました。
そのまま映画を観ていたのですが、10分ぐらいたった時点で、その隣に座ってきた男、何と自慰行為を始めたではないですか!
恐ろしくてワタシは視線をスクリーンからはずさないようにしていたし、座席の間隔も2つあるにもかかわらず、男の異常な動きで視線を動かさずともそれは明らかで、数分ワタシは恐怖心で固まりつつ映画を観ていたのだけれどもワタシの真後ろにさらに違うオジイサンが立っているのを感じ、これ以上変質者に囲まれては危険だと判断し、2つ前の、熱心に映画を観ているオジイサンがいるだけの列の一番右側のドア横の席に移動しました。
そして何とか映画に集中しようとしたのですが、あたかも治安のめちゃくちゃ悪い街で夜中一人で歩いているような、全神経を張りつめている感覚から脱することができず、移動した席でも自分の前の席のオジイサン二人が同性愛者の行為を行っているのに気付き、本当に恐怖で身の毛がよだち、映画の途中で劇場から出ようかなとも思ったのですが、はるばる浅草まできて、恐ろしい思いしてここまで観たのだから最後まで観ようと腹を決め、何とか最後まで観切りました!
エラいぞ、ワタシ。
スクリーンの「終」の字が出るか出ないかのうちに場内から出て、逃げるように浅草新劇場を後にしました。
本当に恐ろしかった!
以前、新宿国際劇場の土曜日のオールナイトに行ったことがあるのですが、そこはワタシ以外のすべての人がゲイだったので、逆にある意味安全だったのですが、浅草新劇場は何されるかわからないという恐怖心と緊張感でどうにかなりそうでした。
(もっとも、もしかしたらワタシの後姿を見て、ワタシのことをオカマだと思ったのかもしれません。女性なんてまず来ない劇場でしょうから)
劇場にいく前は同時上映の『無頼 黒匕首』(小沢啓一監督、主演・渡哲也)も観たいなと思っていたのですが、とんでもありません、1分たりともこれ以上劇場にいることはできませんでした。
で、『東京湾炎上』ですが、極度の緊張のあまりどういう作品だったかよくわかりませんでした。
いえ、ちゃんとスクリーンは観ていたのでストーリーはわかりましたが、心ここにあらずでした。
まったく、東京湾が炎上するかどうかなんかより、浅草新劇場にいる自分の身の危険をどう切り抜けるかの方がよっぽど重要でしたよ!!
あえて、気が付いたことをあげると、藤岡弘の顔が黒い、テロリストの黒人たちがヘンな日本語話してて妙だった、タンカーの船長である丹波哲郎が途中で死んだのは意外だった、ぐらい。
どんなに観たい作品が上映されようとも、今後は絶対に浅草の劇場で映画を観ないことを決意いたしました。
恐怖に震えつつ六区から合羽橋方向に移動し、生涯学習センター北というバス亭から台東区の循環バス「北めぐりん」に乗り、東浅草二丁目というバス亭で下車。
山谷にあるコーヒーの名店「カフェ・バッハ」に行くためです。以前行ったときコージーな雰囲気、対応に感激し、また行きたいと思っていたのです。(その時の
ブログ)。
前回と同じように、今日もまた入るなりキビキビした接客が気持ちよく、店内は明るく、恐怖体験をした直後のワタシはここでやっとホッとしたのでした。
まずイタリアン・ブレンドと焼き菓子をオーダー。
甘い焼き菓子を口にした後に飲む深煎りのコーヒーの苦味が絶妙で、幸せな気持ちになり、先ほど嫌な思いが頭から完全に消えました。
次に、インディアと生菓子を注文。
ケーキはお店の方がすすめられたチョコのケーキで、上にチェリーが1コのっていて、チョコクリームの間に軽い生クリームが挟んであって、その生クリームの中にはチェリーが入っておりました。新作だそうです。
インドの豆を置いてある喫茶店は少なく、インドの豆があるとわかると頼むことが多いのですが、どこのお店でもインドの豆はかなり個性的なクセの強い味わいです。
カフェ・バッハのインディアは新鮮な雑味がない味で爽やかな感じがいたしました。
やはりケーキとよく合います。
ちょっと懐かしいケーキと、素直な真面目なコーヒーという組み合わせ、とても好感が持てます。
バスに乗ってカフェ・バッハに来て良かったです。お店の方も感じがいいです。
傷心が癒されました。
南千住から地下鉄に乗り、渋谷へ。
道玄坂の喜楽のラーメンが好きなのですが、数ヶ月前に2階で食べていたらNの襲撃を受け、思わず悲鳴をあげてしまい、そのトラウマでしばらく喜楽に行けなくなっていたのですが、浅草新劇場に行った後で今日は度胸が出来ており、久しぶりに中華麺食べました。やっぱり美味しいね。
シネマヴェーラの東宝アクション特集へ。
身の危険を感じずに映画を観られるって素晴しい!!
『ヘアピン・サーカス』があまりの衝撃作だったので、これからは西村潔作品を観ていかなきゃいかんということで(『ヘアピン・サーカス』のほかにこれまで観たことがあるのは『白昼の襲撃』と『豹は走った』のみ。そもそも監督作品があまりない)、今日は西村潔作品の2本立て。
『死ぬにはまだ早い』(69年)。
これは監督デビュー作だそうです。
すごく面白かった。
主人公の高橋幸治・緑魔子は、倦怠期の不倫のカップルで、二人ともすごくニヒルなキャラクター。
冒頭の二人のベッドシーンが艶かしくてとてもいいです。
直後に高橋幸治のカーレーサーだった頃の回想になり、『ヘアピン・サーカス』と同じようなカーレースのシーンが入ります。カメラマンは『ヘアピン・サーカス』と同じ原一民。
やはり車のスピード感が素晴しく、この監督とカメラマンは車が走っているのを撮らせたら超一流だなと思いました。
このままカーレースにからんだ話なのかと思いきや、突如二人が立ち寄ったドライブインを舞台とした密室劇へ。
ドライブインの中に、狂犬のような黒沢年男が銃を持って入ってきて、客を人質にとり立てこもります。
そこから、臆病者の狂犬・黒沢年男が、三菱銀行人質事件(79年)を彷彿させる、人質に対する様々ないたぶり行為をする地獄絵図が繰広げられます。
この人質に対する脅かし・いたぶり度合いはすさまじく、人質のエゴもむき出しになり、物凄い緊張感を持った作品になっております。
ラストはかなり驚きました。
時折ユーモアも垣間見えて、立てこもり中の緊迫した状況の中、お店に入ったときに注文したハンバーグができあがって出てきたり、最後生き残った人質が帰るとき、木っ端恥ずかしい車に乗って帰っていったりいたいます。(生き残った人質たちが事情聴取されずに次々帰っていくのはヘンなのですが)
黒沢年男は不器用な役者だと思っているのですが、この作品では狂犬ぶりがとても合っていてなかなか良かったです。
すきま風が吹いている高橋幸治・緑魔子カップルの狂犬・黒沢年男に動じない虚無的な感じが魅力的でありました。高橋幸治は『妻二人』でも全然動じない役だったような記憶です。
この作品、緊迫感が凄い作品なのですが、歌謡映画でもあって、車のラジオ、ドライブインのジュークボックスから次々と皮肉っぽく歌謡曲が流れておりました。
やっぱり西村潔スゴい!(一橋大学卒、女風呂盗撮で逮捕、61歳で入水自殺という生涯も含めて。)
続いて同じ西村潔監督の『黄金のパートナー』(79年)。
もともと上映されるはずだった『密輸船』のプリント状態が悪く差し替えになっての上映です。
紺野美沙子のアイドル映画というか(こんな作品が撮られるほど紺野美沙子って人気があったんですか?)、サイパンの観光映画というか、ぶっちゃけ何の中身もないうわべだけの映画。
藤竜也と三浦友和と紺野美沙子がサイパンで宝探しをするのを観て、「ああ、『冒険者たち』なんだ」と思ったのですが、これはヒドい。
表面的に美しい映像をつなぎ合わせ、来生たかおのお気楽な音楽を流し、当時はこういうのがオシャレだったんだろうなーとは思いますが、観ているのが面倒臭くなって途中寝ました。
殿山泰司のことを「コジャックのおじちゃん」と呼ぶところ以外、すべてツマラナイ。
美しい映像を撮ろうとしたのはわかるんですけどね。映画じゃななくて、ビデオクリップみたい。どういう企画でつくられた映画なんだろ。どうでもいいけど。
最後、紺野美沙子の名前が出たときにユニチカと出てきてました。そういえば彼女、ユニチカ・ガールでした。この作品が女優デビュー作だそうです。
色々あった今日一日でした。
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